工学院大学建築学科 助教授 工学博士 遠藤和義
始めに
建設業界をとりまく状況に以前好転の兆しは見えない。建築工事の市場規模は、ピーク時の53兆から30兆円を割る水準にまで縮小した。ゼネコン間の厳しい受注競争によって、施工単価は相当下がり、メーカーあサブコンからはその単価のしわ寄せへの悲鳴が聞こえてくる。
一般に、ゼネコンの原価管理は、請負金額を各費目に「割り付け」ることによって行う。発生する費用を「積み上げ」ていたのでは、経営上のリスク抑制は困難となる。一方、建築工事の施工の特徴は、その多くが工場や現場での直接的な労務提供による点で、そのマネジメントがサブコン本来の存在理由となっている。
作業者を直接雇用するサブコン(ダクト業者)は、所要の人口に対応した作業者の賃金やそれに付随する法定の費用、サブコン経営全体に必要な経費等を経営上確保する必要がある。つまりサブコンは請負関係を雇用関係に変換する機能を果たし、その経営には積み上げ型の費用発生が必然的に伴う。
本来、サブコンはその存在理由から生じる効した経営上のリスクを低減するため、相当の原価管理能力を持つ必要がある。しかし実際は、特定ゼネコンとの系列的取引やその配下にある重曹下請制背景に、サブコンの原価管理の実態はこれまでブラックボックスであったと言ってよい。
始調査の概要
今回、以上のような背景をふまえ、サブコンの原価管理の実態を明らかにすることを目的に、ダクト工事業者をはじめ、型枠大工、鉄筋、とび・土工、左官、電気、管の各業界を対象にアンケート、ヒヤリング調査を実施した。
ダクト工事業者については、全ダ連傘下の23社にアンケート調査を郵送によって実施し、業界全般の状況について、(株)須長製作所の須長義明社長、(株)大北熱学の北田裕昭社長にヒヤリングを実施した。なお、調査時期は平成13年9月~11月。調査内容は、企業の概要、従業員の概要、業務内容、受注先およびその関係、外注先およびその関係等。調査対象の属性は、年間完工高最大20億円~1億円、社員数最大130名程度~10数名に分布している。
以下にその結果を概要と分析を示す。
受注先、一時設備サブコントの関係
ここでは、調査対象となった全ダ連傘下企業を「サブコン」と呼び、その受注先を「設備一次サブコン」、その外注先を「三次サブコン」と記述上区別する。
サブコンサイドの原価管理で、まず重要と考えられる受注製作については、量と価格、受注の連続性などいくつかの要因を考慮した戦略の選択となる。価格については、全ての企業が「設備一次サブコンの意向に近い」と回答し、受注量確保を優先し、サブコン側の価格交渉は一般に低い。設備一次サブコンとの間での支払条件は、一般的に労務が現金、材料が120日サイトの手形となっているが、相手によって細かなばらつきがある。労務に手形を含むと言う回答も複数あった。
受注範囲はダクト工事工事材工一式で、常用などの精算的要素は殆ど含まないが、しばしば起こる設計変更、追加、その他の変更がどの程度最終の精算で反映されるかについては、相当のばらつきがあるとともに、その不満を訴える回答もあった。
取引先のある受注先、設備一次サブコンとの関係で、取引先を今後、「増やしたい」という企業は、この設問に回答のあった22社中3社にとどまる。「増やさない」理由として、「施工能力」と答えるものが多いが、「新規参入は安値受注となる」という理由も複数あった。
取引先の選別・集中については、現状を「特に変えない」が22社中11社で最も多く、ついで、「現在の受注先の中で比率を分散する」が8社、「今取引のある中から数社への比率を高める」が2社、「新規の受注先を開拓する」が1社となった。特定受注先への完全専属企業はごく少数で、すでに受注先は分散の傾向にあるが、現在の取引先範囲内で一層の分散化を進める傾向が強い。これには、設備一次サブコンが今回調査対象となったクラスのサブコンを組織する協力会の拘束を弱め、積極的に競争性を導入していることも影響していると考えられる。
施工体制、三次サブコンとの関係
施工体制すなわち、直用工、常用工、臨時工などの投入と外注先である三次サブコンへの発注の配分は、原価管理上最も重要な政策といってよい。直用工のみで施工しているとする回答はなく、平均的な稼働状況でも三次サブコンに発注する場合が相当に多い。はぼ100%三次サブコンに施工を依存する企業もある。この分野の原価管理の透明性を高めるために避けて通れない課題に、直用、準直用、常用、臨時などの雇用形態とその具体的な内容、例えば雇用期間、雇用保険、健康保険、年金、有給、退職金、諸手当の関係の明確化がある。今回の調査でも、社員として雇用されている職長を中心とした作業者を除けば、同じ呼称の雇用形態でもその条件の個別性はきわめて強い。建設業全体でもこうした賃金とそれに付帯する諸条件確保の困難が指摘され、また、その費用を別枠確保するためのアピール等がなされているが、それらに実現性がなければ、外注化を選択さぜるを得ない。
結果、今回調査対象としたクラスのサブコンの原価管理政策は、外注費管理的な内容が強い。三次サブコンとの関係は、発注規模の大きい企業では、専属的な三次サブコンを組織した協力会を持つところも多い。発注方式は特命が圧倒的に多く、契約は請負と人口(常用を含む)契約の混在する場合が多いが、現状の厳しい単価を考慮すれば請負へのシフトによって重層化が進行する可能性もある。一方、人口契約中心の企業では、三次サブコンとの間で常用単価の取決めをする例もあり、現状、一定の頻度で更改し、機能しているという。今回調査した躯体乗者の一部には、すべにこうした常用単価の取り決め自体が有名無実化している実態も認められた。
調査を終えて
現状を大きく捉えると、設備一次サブコンと今回調査したクラスのサブコンの間の伝統的な名義人関係が流動化している。これにより、サブコンは従来の直用工や常用工を抱えた施工体制の維持が困難となり、三次サブコンへのシフトが進んでいる。冒頭述べた「割り付け」の論理にサブコンが乗り換えれば、
重層化はさらに進み、作業者の再生産が不可能となる。サブコンの本来の姿は、「積み上げ」の論理を主張するところにあり、CM契約の導入などにその可能性を見出すこともできる。サブコンの現状に対する悲鳴を発注者、ゼネコン、行政、社会全体に理解されるメッセージとするために、各企業には経営のアカウンタビリティを高めるより一層の努力が求められるであろう。
最後に、調査にご協力いただいた会員の方々に対し、ここに記して謝意を表します。ありがとうございました。
※注:アカウンタビリティ(accountability)…責任、義務 |